精神病院ではみんなまともなことをいう
シャブのフラッシュバックや、自傷癖、躁鬱持ちに、統合失調症……そんな連中と同じ釜の飯を食うのだから中々きつかったよ。年寄りが多かった気がする。若い俺は珍しいのか色んな人が話しかけてきた。
その中に元自衛隊員がいた。空挺部隊にいたっておっさんで、薬物の禁断症状と統合失調症で来ていて、煙草を吸える小さなスペースがあって、そこで良く喋っていたんだけど、おっさんは、良く包丁片手にラジオ無線を聞いては何か叫んだりしていて、ある日嫁に逃げられて、嫁の自宅まで包丁持って会いに行ったところ、通報で駆け付けた警官に逮捕されて、病院に送られたと言う。
おっさんは明るくていつも大きな声でなにか歌ってて、色んな話をしていた。活字だけで見ると、ヤバい精神疾患の人ってイメージも、実は話してみると全然そんなことはない。一目でおかしな人も中にはいるけど、そのおっさんのようにわからない人は沢山いる。
そのおっさんと俺の喫煙仲間に、新たに沖縄出身の男が加わった。そいつは祭りの喧嘩でここに来た、と言っていたが、喧嘩くらいで精神病院に来るのはおかしい。少し虚言癖のある沖縄の男はある日、俺が入院時につけていたパネライの壊れた時計と、自分の持っていたロレックスの青サブを交換して欲しいと言ってきたから、快く交換した。数日してから沖縄の男が、
「やっぱり返してくれ」
と言ってきたから、返したけど喧嘩になった。
「はじめから交換なんて言うな」
「うるせぇ、壊れてるだろ」
胸ぐらを掴んでいたところ、元自衛隊のおっさんが止めに入り、俺と「沖縄」に、
「ふたりがここを出たら大いに稼いで、そしてふたりでもっといい時計を買うといいさ」
と言った。あまりにまともな言葉を発せられた俺と「沖縄」は恥ずかしくなり、喧嘩をやめた。そのおっさんが今どうしてるかは知らないが、そんなまともな人が精神病だったりするんだからわからない。
話を戻すけど、この飯森ってのもそれぐらいまともな判断が出来たのは間違いないと思うよ。スーパーで服を購入したり、同級生に電話したり。そう考えると、飯森が「最後の凶行」をしなくて、本当に良かったと思うよ。
大声で歌うのは幻聴をねじ伏せるためかもな