【逆転裁判】日本のタトゥー・刺青文化を守るため闘い抜いた約1200日

【逆転裁判】日本のタトゥー・刺青文化を守るため戦い抜いた約1200日-1

無罪判決となった増田太輝氏(30)。

【逆転裁判】日本のタトゥー・刺青文化を守るため戦い抜いた約1200日

長い公判を闘い抜いた 彫師・増田太輝に聞く

文=ケロッピー前田
日本のタトゥーカルチャーの行く末が試された大阪タトゥー裁判。11月14日、大阪高裁は、医師法違反の罪に問われた彫師・増田太輝被告の控訴審判決で、一審判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。
この裁判は、「タトゥーは医行為(医業)か?」が争点となって闘われてきたが、西田真基裁判長は「タトゥーは装飾的な要素や美術的な意義があり、医師免許が必要な医療目的の行為ではない」と述べた。つまり、タトゥーは医行為でなく、芸術であるという増田氏の主張が認められたのだ。
増田氏がタトゥー施術が医師法違反に当たるとして略式起訴されたのが2015年春。彼はそれを不服として裁判で争うことを決意して今回の裁判となった。しかし、2017年の第一審判決では屈辱的な敗訴をした。もしタトゥー施術が医行為であるというなら、医師免許を持つ彫師がいない日本では、事実上、タトゥー施術は違法となってしまう。そんな緊迫した状態でも、彼は諦めなかった。
「一審判決を受けたときの悔しさと屈辱は忘れません。あのとき、本当にたくさんの方々からメッセージをいただき、それに背中を押されて、闘い続けることができました。そのことには言葉ではあらわしきれない感謝の気持ちがあります」
そう増田氏は振り返る。だが、ここで重要なのは、一審の敗訴を控訴審で覆すためには、まったく別の闘い方をしていかなければならないことだ。
「クラウドファンディングが最も重要なポイントでした。弁護団の方々の議論でも、一審の敗因は金銭的な問題で調査が十分でなかったから。そのため、集めたお金で、諸外国のタトゥーの法律や制度の状況調査、さらに憲法上の意見書などを作成して、控訴審の補充資料として提出しました」

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去年9月27日、大阪地裁でまさかの有罪判決を受けた(写真=ケロッピー前田)

そう増田氏は続けた。ここでいうクラウドファンディングとは、今回のタトゥー裁判の控訴審等の費用を集めるために行われたもの。裁判費用のためにクラウドファンディングが使われるのは日本では初めてのことで、裁判の新しい形としても注目された。
もともと増田氏の支援団体「SAVE TATTOOING」が署名活動やイベント開催などを通じて裁判費用の募金を集めてきたが、それとは別に「控訴審のための追加費用」に絞り込んでファンディングすることで、さらに多くの支援を得ることに成功したのだ。

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増田氏の支援団体『SAVE TATTOOING』の活動が今回の勝訴に大きく繋がっている
http://savetattoo.jp

一方、増田氏個人のこの一年を振り返るなら、タトゥー実演を見せることで一世を風靡したアメリカのテレビ番組『マイアミ・インク』の製作チームが手がける、Facebook Watch配信の新番組『The Tattoo Shop』に招かれて渡米したことにも大いに励まされたという。
「一審の敗訴の直後、『The Tattoo Shop』から連絡があって、僕がタトゥー裁判で闘っていることは日本の社会問題だろうということでご招待いただけることになりました。そのことで一番良かったのは、向こうの方々に僕自身の言葉でタトゥー裁判のことを伝えることができたことです。また、しばらく日本を離れたことで、自分に確信が持てたし、強い気持ちになれました」
増田氏は、この番組内でアメリカの彫師にタトゥーを入れてもらっている。そのことも彼にとっての貴重な体験になっただろう。逆転無罪となった今の心境はどうだろう。
「裁判を続けてきたなかで、公判中は彫師の仕事ができなかったので、犠牲になっていた時間があります。まずはそれを取り戻したい。そして、彫師として表現していくことで、ずっと支援してくれた方々に恩を返していきたいです」
また、今回無罪を勝ち取ったとしても彫師という職業を日本の社会に認めてもらうためには、プロとしての衛生基準や施術に関するガイドラインを定める業界団体が必要である。実際、弁護団の一人、吉田泉弁護士が呼びかけ人となって、彫師の協会設立に向けて準備を進めている。増田氏も彫師の一人として加盟し、協会を支えていくつもりだ。
「タトゥーや刺青に対する偏見はなかなかなくならないけど、それ自体を否定するつもりもない。タトゥーが嫌いな人は嫌いなままでいいから、そういう人たちにも受け入れてもらえるように、説得力のある形で彫師の仕事やその環境、衛生基準などを知ってもらえればいいと思います」
そう言って胸を張る増田氏。その自信に満ちた語りぶりこそが闘い抜いた勇者の証だろう。日本のタトゥーの新時代を開いた今、これからはその熱い思いを彫師として存分にタトゥー作品で表現して欲しい。

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裁判中はアパレルデザイナー業で生計を立てていた増田氏。シューズやバッグ、ジャンパーなどに直接デザインを描き制作(写真=ケロッピー前田)

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増田氏の掘った過去のタトゥー作品。22歳で彫師として独立するまでは、仕事をしながらタトゥーの勉強を続け、自分の体を使って練習していた

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