西日本某所の山中にある「人喰い村」伝説

陰惨な村の歴史

「お前、ガンジャを採り行ってないだろ?」
噂はデタラメだと伝えると、知人はそう言った。ただ単に滞在期間が短か過ぎて核心にまで触れていないだけだと。
たしかにテント付近は妙な香りが漂っていたような気もする。
だが、仮にそうだとしても、人を殺すと言う事とはまったく関係がない。そもそも、村にそんな不穏な空気は感じられなかったのだ。
しかし、つぶさに話を聞き思い返してみると、不可解な点もたしかにある。
村で出会った村人は年配者がほとんどであり、若者は最近住みはじめたという数人しか見なかったこと。そして彼らは明らかに「キマっていた」こと。
「マンソンと同じだよ。クスリで人間をコントロールする。カルトだ、カルト」
70年代初め、アメリカで「ファミリー」の名の元に共同生活をし、殺人まで行った犯罪者チャールズ・マンソンとLSDの関係は有名だが、それと同じ仕組みがこの村にあるという。確かに、村人みなが持つ、非現実的な多幸感は、奇妙といえば奇妙だ。
「あの村の自然は、そもそも桃源郷そのものだよ。仕事もない、夢もない、常に競争を強いられる。そんな社会に嫌気がさした奴らの最後の楽園なんだよ。働いた分の食料はあるし、ガンジャは自生してるから吸い放題。完全にハマッちゃうよ。奴らはそれを利用してるんだよ」
彼の話では、村の指導者は大規模なイベントを行い人を集める一方で、そのチケット代と村に共感した若者からの寄付金で金を儲けながら、厳格な「自治の理想」を掲げ、疑似共同体をつくっているという。
「村にはルールはないけど、この桃源郷を後世に伝えるという理念がある。それは強要されるわけじゃないけど、なんとなくそんな雰囲気で、裏切れない感じなんだ。それを裏切ったら、この村は成り立たなくなるわけだから」
だが、はじめは桃源郷に憧れていても、徐々に感じる気味の悪さや、現実世界へ戻りたいと願う若者はやはり村から逃げ出そうとする。そして逃げだそうとした者は皆、その後、行方不明になっているという。
「逃げ出して捕まったヤツは、クスリ漬けにされて逃げられなくさせるとか、若い村人から集団リンチされて殺されるとか、とにかく色々噂はある。地図にも載ってない村で死体を埋めたってバレるわけがない。桃源郷とかって言うけど実態はね…人喰い村だよ」
自然とドラッグを崇拝するその場所はまた陰惨な歴史を辿った村でもあるという。
以前は村落として100人程度が住んでいたが、戦時中、若い男が徴兵され疲弊し、女、こどもは食糧難でこの村を去っていた。また、老人の多くはこの場所に残ったが、戦争が終わると彼らは集団で餓死している姿で発見された。戦後その場所には誰も住む者がおらず自然にまかせるままに廃れていったそうだ。
そこへ70年代日本各地を旅していたヒッピーたちが訪れ、素晴らしい自然を目の当たりにした彼らは一から村を作り直し、自給自足の生活をはじめた。
そしてそれから40年以上が経ち、レイヴパーティーを開くために場所を貸して欲しい、とひとりの若者があらわれたというのである。
不況が叫ばれ自殺者は増加する、そんな社会をかなぐり捨てるようにしてできる「自治の村」たち。そのほとんどは若者の夢や解放の場として純粋に成り立っている。
だが、あまりに閉ざされた集団はいつの日か、理想を求めすぎたために、狂気を生み出すのだろうか。
それとも、閉ざされた故に、嘘が真実のように語られ、それが噂となっているのだろうか。
だが、噂が事実だったとき、「人喰い村」が新たなカルト宗教誕生の予兆となることは間違いないだろう。
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欄外注)
*1)
野外で行われる音楽イベント。サイケデリックトランスミュージックを主とし、ドラッグカルチャーの温床と批判されることもある
*2)
自然主義の思想を啓蒙するようなトークやワークショップなどを開く催し物

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