「あんぽら」 第1章 地下地下の賭け喧嘩 デビュー編【第7話】
7話 もらっといたら、ええやん~
「ぁ~、終いや、終いやぁ~」
クニヨシくんがトモヤの脇腹を引っ張り、止めに入ってきた。それでも顔面を踏もうとするトモヤを、胸ぐらをつかみ顔を叩いた。そして会場の歓声を制するように大声で叫んだ。
「終いじゃ、コラぁ、終いや言うてるやろが!」
そのまま手首をとって、その右手をあげた。
「勝者、トモヤ~、拍手~」
パシ、パシ、パシと数人が手を叩いた。
…えっ、勝ったんか…とトモヤがホッとした瞬間、会場の怒声、罵声やパイプ椅子から人が立ち上がる音がボリュームを上げたように鼓膜に響いてきた。
「おぃ!クニヨシ!上手いことやりよったな!」
「このガキ、ワシに渡さんかい!落とし前じゃ!」
「おぃ、帰んど!車を用意せぇ!あのダボがぁ!」
奥からクニヨシくんのマジェがリングの中に入ってきて、スーツの舎弟が降りてきた。倒れているサヤマを2人で持ち上げて、トランクに積み込んで閉じた。1人はコンクリートの血や汚れを拭きはじめ、もう1人はパイプ椅子を2tトラックに片付け始めた。もの凄く早いスピードの掃除に…ほんま、ヤクザやん!…とトモヤが唖然と見ていると、ショーキが膝を付いたまま泣いているのが奥に見えた。殴られて血だらけの顔は血と涙とほこりでグシャグシャだった。外から覗いていたコウダイもヤバぃ、ヤバぃ…と呟きながら、6号棟に帰っていった。
「おぅ、お疲れ~、帰ってええど」
トモヤに声をかけたクニヨシくんに、膝立ちだったショーキが駆け寄り挨拶をする。
「お疲れ様です!」
「ワレ、まだいたんけ? はよ、いね」
奥に止まっていたアストロに乗り込み、助手席のガタイの大きな坊主の男と笑いながら、運転して出ていった。地下からは次々と車が出ていき、いつものように暗くなっていった。
「おぃ、キミ、キミぃ。なんか、なぁ、ワシだけ大勝ちしたみたいなんや、ハッハッハッ~」
試合中ずっと女と話していた白いスーツの男がニコニコと笑顔で話しかけてきた。背は低いがガッチリしていて、威圧感がある。
「これで、飯でも食べぇ」
ポケットから現金の束を出した。
「いやいや、そんなんもらえないっスよ」
「ええんや、ええんや、なんや、出したもん引っ込めさすんか」
隣で男の腕にしなだれかかっている黒のミニのドレスでピンヒールのキャバ嬢もニヤニヤしながら言った。
「もらっといたら、ええねん~、この人、お金持ってるさかい~」
トモヤはしかたなく現金を握ると会釈した。
「ほななぁ~」
2人は腕組みをして黒のマセラティに向かった。男が助手席に乗りキャバ嬢が運転席に乗ると、タイヤを鳴らしながら急加速でスロープを駆け上がって行った。その車が出た後の地下地下はトモヤとショーキが残った。2人とも血だらけでホコリまみれだ。
「ショーちゃん、俺の事、ハメたやろ!」
すると両手を胸の前で合わせ頭を下げてから両手を持ち上げた。ショーキ独特の謝り方だ。
「まぁ、ええわ、勝ったわ、楽勝や。ショーちゃん、帰ろ、帰ろ」
…親父の言うたことは間違いないな、やっぱり、喧嘩と格闘技は違うなぁ~ 先手必勝できんかったな、あいつ、格闘技やってる先輩とはレベルが違ったわ、空手のパンチは痛いけど、我慢できるな、拳は重くないし、当たる時にだけ拳を握っとたわ。格闘やってるヤツに勝つんわ、肉を切らして骨を断つ作戦やな、今度はパンチをデコで受けて、脇腹空いたら思いっきりドツいたろ…とサヤマとの試合を思い出していると、ショーキが横歩きで近づいてきた。
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