アウトロードキュメント:鬼 後編

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監獄ラッパーがゴールデン街で音を奏でる理由:後編

ようやく見つけた居場所

「ブルースやってます、とかバンドやってますって人は多いんだけどね。ラッパーっていうからどんな若造かと思ってたら、なんなんだこの人は? ってのがやって来て」
ゴールデン街三番街にある『音吉』という店でインタビューをしてると、カウンター越しにママが口をはさんできた。すかさず鬼も、「俺から言わせれば、お前もなんなんだって話だけどな?」と言い返す。街にやってきて以来、常連で通っている店だという。
「デン街って本当みんな自分の話をしたがるやつばっか。俺もそうだけど、自分のことでいっぱいいっぱいで、路地曲がったら鼻行ってるやつよくいるし。でも街のルールもちゃんとあるよ。バーテンでも常連でもオモテ出たら喧嘩できちゃうって気概、今でもみんなあるから」
上下関係が厳しいゴールデン街のなかで、「最初は俺、下足番みたいなことやってたからね」と笑う。
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「でも『久』もそうだけど、結局入った店が良かったんだよね。色々な人に繋がらせてくれた。TOMさんが、『俺そう言うやつ好きだよ。鬼の後ろならベース弾いてもいい』って言ってくれて、それで組んだのがピンゾロ」
ゴールデン街のバーで働きはじめた鬼は、『音吉』のオーナーでもあるThe FUNKY PERMANENTSのベースTOMと、犬式のDr,Kakinumaとの3ピースバンド「ピンゾロ」を結成した。ジャジーで骨っぽい演奏のなかで、ラップのような昭和歌謡のような、鬼の独特なメロディが響く。
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「でもこの街で音楽やるの、そんな簡単なことじゃなくって、最初はぜんぜん受け入れられなかった。そりゃそうだよ。この街の人から見たらラップなんて許せないもん。ヒップホップ界でどうとか関係ない。『お前何言ってんの?』って普通なる。だから十年続けてきて、やっと今日あそこに出れたの。『ゴールデン街劇場』で先輩方のライブ初めて見たのが十年前で、この街でコツコツやって来て、やっと俺も同じ舞台に立てた」

この夜のライブを締めくくった『小名浜』が終わると、満場の拍手のなかで「鬼! カッコよかったぞ!」とその先輩たちの声が飛びかっていた。

17歳で上京してから二十年余。福島と東京を、塀の内と外を転々としながらようやく見つけた居場所がこの街なのかと訊ねると、鬼に「いんや、墓場だね」と笑ってあしらわれた。本音なのか照れ隠しなのか、しかし昨年リリースのアルバム『火宅の人』に収録された『skit 東京』という曲は、こんなリリックではじまる。

二十七の夏、三度の上京
何を言ってくれる? 花の都よ
この街は淋しくていつもキラキラしてる
追いかけても逃げても同じ所に来ちまう
今も昔も同じ所にこだわってる
絡まってる
なあ、あんたもそうだろ?

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夜も深くなり、インタビューの最後に、「あなたにとってゴールデン街とは?」と情熱大陸じみた質問をふざけて投げてみた。
「ここが私のアナザースカイ……嘘だよ、滑ったじゃんかよ。なんだろうな。わっかんねえけど……ああ、こんな風になりたいね。この街にとっての」
まだ刺青の仕上がりきっていない左腕が天井をさしていた。スピーカーからは憂歌団の『10$の恋』が流れていた。
「前に大阪のオバちゃんに『憂歌団ってどんなやつらなの?』って聞いたの。そしたら『きつねうどんだね』って、『きつねうどん、誰だってたまに食べたい時ってあるやん?』だって。ソウルフードになってるんかぁ、いいなぁ、俺もいつかそうなりてえなって」


鬼 NEW ALBUM「 DopeFile」ジャケ写
『DOPE FILE』
突如シーンから姿を消し、昨年突如アルバムをリリースし完全復活となった孤高のリリシスト鬼。今回は ”FEAT” をテーマに現在までに鬼が参加した楽曲と新宿ゴールデン街からピンゾロや、酒匂ミユキ等を客演に招いた新曲を収録した鬼の本領発揮の歌謡路線が垣間見られるアダルトな作品。
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