【密着レポート】神輿と和彫りが踊った夜【8・18堤夏祭り】
「男の粋を守っていく」
市営のバス停を降りた目の前の店に、半纏を羽織った男たちの姿があった。すでに祭りははじまっているらしく、皆額に汗を浮かべて談笑している。遠くから聞こえる甚句(日本の伝統歌謡)に吸い寄せられるように歩いていくと、神輿を担ぐ一団が見えてきた。
「どっこいしょ~どっこいしょ~」
威勢の良い掛け声が住宅地に響く。それをみて近所のこどもたちが楽しそうにはしゃぐ。
8月18日、神奈川県茅ヶ崎市。
周辺地域で「堤夏祭り」の名で知られるこの祭りは、平塚市の横内団地で開催されていた「横内団地祭り」が場所を変えたものだ。茅ヶ崎市へ移って今年で4年目になるこの祭りだが、他の地域のものとは違う特色を持っている。夕暮れ時、ひとつの掛け声が上がると景色が一変するのだ。
「さぁ、皆様。お待たせいたしました。準備はいいですか? 担ぎましょう!」
恰幅の良い旦那衆が一斉に半纏脱ぐと刺青がみえた。神輿にあつまる人々すべてが、体中に美事な彫り物を入れている。この祭りは平塚時代から知る人ぞ知る「刺青祭り」なのだ。
祭りを協賛する御輿会「龍連合」の総代が孫と共に神輿に上り掛け声をかけると、担ぎ手が沸き立ち、背中の龍や虎が踊るように蠢く。般若が息を吐いている。流れ落ちる汗。神輿が上へ下へ、右へ左へと揺れる。子連れの若い衆が「早く背中を仕上げて、神輿に上がりたいです」と上気した顔で言う。
世間では刺青への風当たりは年々厳しくなっていて、ほとんどの祭りでは担ぎ手の刺青を見せることすら禁止している。だが、祭りに参加していた男性は言う。
「これは男の粋を披露する貴重な場。だから絶やさないようにみんなで力を合わせてやっていく。気兼ねなくできるようにこの場所を選んでいる。神輿は龍連合、関東彫勇會、湘南連合の3基が集まり、担ぎ手は関東近郊や静岡からも来ている。ウチ(龍連合)の神輿は独特で、江戸前の4本の担ぎ棒と違って縦に2本の担ぎ棒がある“どっこい神輿”。金具を叩いてリズムを鳴らし、オリジナル甚句『昇り龍』を謳うんだ。やんちゃしてきた人間が多いから、威勢が良いんだよ」
日が落ちると明かりが灯った会場が、色鮮やかな和彫りで彩られた。
和彫りを入れた旦那衆が神輿にあがり担ぎ手を煽り、「どっこい、そぅりゃ!」と盛りあがる伝統的な日本の夏。刺青に対する規制が強まっている今、この光景はかなり貴重だ。
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