死闘を見れば誰でもガセでもわかるが……
それだけにブラントの商品価値もわずかに上昇しただけだった。
1試合で数10億円を稼ぐ本当のチャンピオンはスーパー王座を持つサウル・アルバレスの方であり、ブラントには大物との対戦話すら浮上しなかった。推定ファイトマネー相場は1~2千万円程度。2億円もの額が本当に正しいかは非公表のため分からないが、実績に見合わない高額ファイトマネーのウワサを聞き、一部関係者が疑いはじめたのである。
ただ、日本行きの値段が高騰するのは当然だ。
村田サイドからすれば日本でやれば興行主催者としてチケットが売れる。村田所属の帝拳ジムは、アメリカでやった場合はファイトマネーの33%が収入だが、日本でなら2万円のチケットを何千枚と売ることができる。そのためブラントに大金を積んででもホームでやりたいわけだ。
「そこはブラント側も分かってるからさ、できるだけ上乗せを求めたはずだけど2億円はさすがに高すぎる。ファイトスタイルが技巧派でファン受けが良いわけではないから、アメリカでやってても2億円を稼ぐには5回以上は防衛しないと無理。この業界は『金でベルトを売る』こともあるので、変なウワサは立って当然だよ」と業界関係者。
過去、亀田興毅と再戦したファン・ランダエタが、ダウンまで奪った前戦とは別人のように手を出さずに負けたときも、そんなウワサが立った。八百長の証拠は何もないが、ドーピングやらジャッジの不正を根絶できないボクシング界だけに、信頼が薄いのは自業自得だ。そして、買収説の原因はもうひとつあって、複数の関係者らが勝利を確信するような話をしていたことだ。
「僕は村田が勝つと思う。KOで6ラウンドまでにいけるでしょ」
日本のプロモーターやコミッションの人々が力強くそんな話をしていたのは、村田の練習のテンションを間近で見たからだったが、部外者がこれを聞けば「勝利が決まっているのかな」と疑ってしまうこともある。
ブラントは、村田陣営が最初の対戦を避けようとしていたほど相性の悪い相手。手数とスピード、足を使う機動力は強い一発を狙う村田に分が悪く、前回は1ラウンドからサンドバッグ状態で鼻血を出した。対応策を考えたといっても、長いキャリアで培ったスタイルを根本から作り直すのも困難で、海外賭けサイトではブラント1.2倍に対し、村田は3.5倍で不利予想だった。
「ここで村田には知らせずにブラントを買収して、1億円を村田に賭けておけば楽々、買収費用の2億円も回収できちゃう仕組みは成り立つよね」と前出関係者。
しかし、その怪情報を吹っ飛ばしたのが両者のファイトだった。序盤、ブラントは前回より積極的に打って出て村田の出鼻をくじいた。顔を赤く腫らせたのはどう見てもガチ。2ラウンド、村田が被弾覚悟で打ち合ったとき、ブラントも必死に踏ん張った。これが八百長ならば、あっさりダウンを喫した方が楽に“仕事”ができたはずで、ガチであっても倒れた方がダメージを軽減できた。そこをブラントはわざわざ踏ん張ってしまったためダメージを蓄積、その後に立ったままのストップされた。
「でもさ、もしブラントがすぐに倒れて3度ダウンしたり、12ラウンドまで長引いて僅差の判定で村田が勝っていたら八百長を疑っちゃったかも」(同)
いつもは冷静な業界の超大物、帝拳ジムの会長が飛び上がって喜んでいた姿も珍しく、八百長説はバカ話になった。選手の激闘でそれが吹っ飛んだわけだが、こういう話が出てしまうことには業界側がもっと信用を積み重ねる努力が必要だろう。(片岡亮/NEWSIDER)
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