“AVの帝王” 村西とおるの「閻魔帳」人生は喜ばせごっこでございます。 Vol.3
Profile:村西とおる
1948年9月9日生まれ
福島県出身。高校卒業後、上京後バーテン、英会話セットのセールスマン、
テレビゲームリース業を経て「裏本の帝王」となるが全国指名手配となり逮捕される。
その後AV監督となって今日に至る。
前科七犯（うち米国で一犯）
これまでに3000本のAVを制作し、7000人の膝と膝の間の奥を視認してきた。顔面シャワー、駅弁の生みの親。
「昭和最後のエロ事師」を自認し「AVの帝王」と呼ばれている
元気ですか、ありがとう、許して下さい。
人間は自分よりもっと下の、底辺を生きている人間を知ることで救われ、頑張る勇気が出るものでございます。
中学三年の時、両親が離婚しました。原因は手前どもでした。夫婦ゲンカをしているオヤジの胸元に、手前どもが台所から包丁を持ち出して向けました。が刺してやろう、などという度胸があってのことではありませんでした。
毎晩のように繰り広げられている夫婦ゲンカを、いい加減止めにしてもらいたいと思ってとったガキのパフォーマンスでした。が、思わぬ展開となりました。
さっきまでオヤジに殴られてうずくまっていたオフクロが突然立ち上がり「父ちゃんになにするんだ」とオヤジの前に両手を拡げて立ち塞がったのです。そして、有無を言わさず手前どもの手から素早く包丁を奪い取りました。
オヤジは何も言わず茫然として立ちつくしていました。翌日、オヤジの姿が家から消えました。そして家に帰って来なくなりました。
一年後、オヤジとオフクロは離婚しました。そして九年後、オヤジは死にました。癌でした。オヤジが死ぬ十日前、病院に見舞いに行きました。
目を閉じてガリガリに痩せ、ベッドの上に横たわっているオヤジの姿がありました。介護の人に起こされ目を開きました。私の顔をジッと見ていました。目から涙が一筋流れ出ました。そして涙がずっと止まることなく流れ続けました。人間は信じられないほどの量の涙を流すことを知りました。
その夜、実家に帰ってオフクロに「オヤジはもうすぐ死ぬ」ことを告げました。オフクロは表情を変えずに黙って聞いていました。
深夜、目を覚ますと、横の布団で背をこちらに見せて寝ているオフクロの肩が震えているのが見えました。低く鳴咽する声が聞こえていました・・・。
「オフクロはオヤジを愛していた・・・」。自分の犯した罪の深さを悟り、慄然としました。
十六年前、会社を倒産させました。五十億の借金を背負いました。死のう、とは思いませんでした。五十億ぐらいもう一度挑戦する機会があればなんとかなる、と甘く考えていました。それまで年商一００億円の会社を経営していた、という自信がやる気の源泉でした。
しかし現実は厳しいものでした。昨日まで「監督が命です。一生ついて行きます」と言っていた誰彼が全員いなくなりました。日一日と追い込まれて行き、四、五年も経つと、再起どころか日々の暮らしにも困窮し、身動きが取れなくなりました。
忘れられないことがあります…
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