「おぃ、お前ら、ええけ?ええけ?いくど?」
パシ…。2人の顔を見て低い声でつぶやきながら、両手を力なく叩いた。トモヤはその味気ない音に、とっさにクニヨシくんの顔を見て言った。
「ぇっ?これゴングなん?」
その瞬間にサヤマのハイキックがトモヤの顔面を直撃し、後ろにズサァッーと転げ滑っていった。
「ぉい、トモヤ、お前ぇ、負けたら承知せぇへんどぉ!こらぁ!賭け面白ろせいや!」
クニヨシくんの怒声が響いた直後にサヤマが秒で襲いかかり、寝転がるトモヤの頭を左手で持ち上げ右肘で顎を打ち抜いた。
…グワァ!あかん、これ効くわ、イキそうや…. 顎の急所近くにくらった衝撃で意識が朦朧とした。なんとかサヤマの足をつかみ、もみくちゃになりながら力まかせに転がした。
「オラァ、ボウズ、ワレ負けたらしばくぞ!」
「イケェー、ヤッタれぇー」
ドスの効いた声とキャバ嬢の甲高い声が入り混じって聞こえてくる。マウントを取ろうと足を両手でつかみ這い上がろうとするトモヤ。サヤマが振り払おうとするとジャージのパンツが膝下までずり落ちて青のブリーフが見えた。
「やめろや!お前、やめろ!なにしとんねん!」
「キャハハ!ウケルわ、カワイイぃ~」
「お前、そんなすぐズレるようなズボン履いとんやったら、ワシが帯しめたろか!」
手を叩いて笑っている指のないオッちゃんの野次に観客一同が爆笑した。ずり落ちたパンツの両足でトモヤの胸を思いっきり蹴り倒した。客席まで転がったトモヤは、…アイツに起き上がられるのは面倒になるな…と思いダッシュでサヤマに突っ込んでいく。
「ええど!ええど!面白ろなってきたわい!」
寝転がりながら血のついたジャージのパンツを履き、立ち上がったサヤマは突進してくるトモヤに前蹴りで牽制し、右フックを軽くよけて脇腹にボディブローを決めファイティングポーズをとった。
よろけたトモヤをミドルキックでリングの一角にあるビルの柱に吹っ飛ばし、そのまま詰め寄りパンチやローキックを応酬しサンドバック状態にした。必死に脇を固めてガードをするものの、みるみると顔面が腫れ上がり、口と鼻から血が溢れ落ちてくる。夜中3時頃に嘉楽中の同級生のコウダイが在所に戻ってくると、いつもと違う14棟の雰囲気に気づいた。…なんや地下地下、明るいな、なにしてんにゃろ… と隙間から覗いた。…人ようさんおるやん、おっ、喧嘩?うわっ、クニヨシくんや、ヤバい、ヤバい、えっ!トモヤやん!えらいやられとるやん!…ビシでキマリまくっていたコウダイの目が覚めた。
「そのまま、いてまえ!」「はよ、いわしてまえ!」「いわしたんど!われ!」「殺せぇ~、イケェ~」
車のヘッドライトの光だけの地下地下に鈍い音と絶叫、罵声が入り混じりながら響き渡っていた。
写真 あんぽら / デザイン 櫻井浩(⑥Design)
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