被害者のことは考えられなかった
恥ずかしい事ですが、詐欺をすると決まってからは「仕方がない」「自分の為に身を切ってまで助けてくれていた人に借金を返せる」等と自分やその周りの事しか考えておらず、騙される事になる被害者の事は考えられませんでした。
実際にフィリピンに行き箱(アジト)での生活が始まると、自分と同じくお金の為に人を騙す事を選んだメンバーの集まり。詐欺が成功すれば達成感もあり、感覚がマヒし、次第に慣れ、早く稼いで借金を返し日本にに帰る事を目標に詐欺を行っていました。
しかし、詐欺師と言えども人間です。
私たちが行っていた詐欺は1人から何度も騙しとる内容でした。何度も電話する内に、自分が騙しとっているお金が、何の為に、誰の為に、どんな思いで、どうやって稼ぎ貯めてきたお金なのか見えてくるし、詐欺と気付いた被害者にお金を返してくれと泣かれることもありました。
そうした時に、自分のやっている事は「何の罪もない人の未来を奪う事」だと気付き、その度に「自分は何をしているのか、このままで本当によいのか」悩んでいました。
悩むといっても結局自分の為に続けていたのでただのキレイ事ですが、その時に感じていた罪悪感が「自分の罪を少しでも償うため、自分の経験を詐欺対策に役立てたい」という今の活動の原動力になっています。
また、今まで私が騙してきてしまった方々の中でも特に忘れられない、忘れてはいけないと思う方が数名いらっしゃいます。
厳しい家庭環境の中で育ち頼れる人もいない中、人の命を助けたいと夢に向かって努力している19歳の方の学費を騙しとった事。体に障害がある方のご両親が将来の為にと残して差し上げていたお金を騙しとった事。結婚し子供を授かった方が今後のためにと貯めていたお金。
被害者の方に泣きながら「お金を返して」と言われた事は決して、忘れてはいけないと思ったこともキッカケのひとつです。
そして、自分でも愚かな事だと思いますが、決定的な点は捕まったことです。もし捕まらずに借金を返し日本に帰っていれば、被害者に感じていた罪悪感もそのうちに忘れてしまったはず。捕まった事でマスコミを通して世間の声を刑事や検事の方から被害者の声を聞き、あらためて自分のしたことの重大さに気付かされ、今後どうして償っていくべきかを考えた結果「自分の経験を詐欺対策を減らすことに活かしたい」と思えるようになったのです。
このように思えたのも捕まったからであり、自分のことを真剣に伝えてくれる人との出会いがあったからです。
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