【独自】安田純平事件余波
東南アジア「誘拐グループ」が日本人を標的にしている
「ひとりで3億円になる」
内戦下のシリアで武装組織に拘束され、3年4カ月ぶりに解放されたジャーナリストの安田純平氏。「裏で多額の身代金が支払われた」との怪情報が広がり、世界各地で日本人を狙うテロリストの活動を活発化させてしまっているという。
昨年10月下旬、国際海事局海賊情報センターは、マレーシアのサバ州海岸で、過激組織アブサヤフグループのボート2隻が、外国人の誘拐を狙う動きを確認。日本の外務省も「危険情報レベル3」の渡航中止勧告を出したほどだったのだが、先日、拘束されたテロリストのひとりは当局にこう供述したと伝えられる。
「日本人を誘拐すれば3億円になる」
さらに年末、インドネシアで日本人を狙う計画を示す文書が流出しており、複数の専門家が「身代金のウワサが広まって、日本人は狙われている」と言っているのだ。
それでも、危険地域への渡航がピタリと止まるわけではない。ダイビングに訪れる日本人も途絶えていない。しかし、日本政府としては、万一に誘拐があっても、被害者の職業や渡航理由などで助ける・助けないを選別することは不可能だ。
テレビコメンテーターらは「立派な仕事をしているのだから英雄視するべきだ」とか、「迷惑をかけたのだから謝罪すべきだ」などと勝手な議論に終始していたが、実のところ国際的な誘拐事件に対する国の対応は「助ける・助けない」ではなく、身代金を「支払うか・支払わないか」だ。国家が国民を助けるのは基本的な義務で、交通ルールを守らない暴走族が事故を起こしても救急車が出動するのと同じ。
しかし、身代金を渡せば、テロリストはさらに強大化し、もっと大きな犯行に出るリスクがある。過去、過激派による拉致被害者を出しているイギリスでは、身代金を拒否したために人質が殺されたケースで、その是非が激論となった。その頃、ドイツ人が身代金を支払って解放されていたからだ。結局、優勢となった意見は「国家が支払うのは危険だが、被害者の親族など民間での支払いを止める権利は誰にもない」というものだった。
安田氏の解放時は政府が姿勢を強く打ち出さない間に、「カタール政府を通じた3億4千万円の身代金支払い」という話が大きく広まってしまった。マレーシアではその額に近い「1千万リンギット」、フィリピンでは「1億5千万ペソ」に変換されてウワサになった。身代金の支払いが事実かどうかは定かではなくとも、こうして具体的な数字で伝えられている以上は、既成事実と同等なのだ。
拘束されたテロリストは「特に日本人や韓国人の旅行者はかなり無防備で、ダイバーならダイバー、釣り人なら釣り人の同じ格好をして近づけば怪しまれない。セールスマンが相手なら、こっちもビジネスマンを装って近づく」とか「日本人を誘拐した場合、日本と直接、交渉をせずに中東のブローカーに売った方がいい」など具体的な誘拐ノウハウも供述。安田氏の誘拐事件では、彼の言動に好き嫌いが分かれていたが、そんなことより重要な話は「身代金の支払い」というウワサをできるだけ流さないことだった。
論点がワイドショー化したことで事態はより悪化しているのだ。(片岡亮)
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