ボクシング世界王者・高橋知哉の青春ストーリー『あんぽら』第1章~2話~

「あんぽら」 第1章 「地下の賭け喧嘩 デビュー戦」

第2話 金欠のショーキ

トモヤの地元の北区に船岡山公園がある。織田信長を祀る建勲神社が隣接しており、山頂は112メートルあり公園というより、小山に近い。京都有数の心霊スポットや自殺の名所として有名で、遡ると応仁の乱の合戦の場所であり、昭和59年には警察官射殺事件があった。公園の中の遊具やベンチのある場所は周辺の中高校生達の溜まり場になっていた。

「なんや、誰もおらんやん」

トモヤが木屋町から戻ってきて、船岡山公園の溜まり場に行くとタバコの吸殻やペットボトルが散乱してた。時計を見ると夜中の1時を過ぎている。千北のスーパーに行くとショーキが道路の縁石に座っていた。さけるチーズをつまみながら、何やらとブツブツ言っている。こっちに気がつかないので、ちょっともらおうと横から袋を取ろうとするとえらい勢いで威嚇してきた。

「やめろやぁ!金払えゃ!金!」

トモヤだと気づいたショーキは真顔に戻り、縁石に置いていたジョイントを取り火をつけ煙を吐いた。

「あれっ?ショーちゃん、いつもと匂いがちゃうやん」

「金欠や~、金欠、これ蓮や、ハッス!」

バツが悪そうな顔で吐き捨てるように言った。在所のショーキの仲間たちは、金欠の時にビシ(マリファナ)の代わりに、蓮を乾燥させて吸っていた。

….ハス?ショーちゃん、また変なもの吸ってるわ….と思いながら隣に座りトモヤもマルメンを取り出し一服しはじめた。

タバコを旨そうに吸うトモヤ を見ながら「おぅ、そうや。この間なぁ、紫野高校のアメフト部のボウズがな、メンチ切ってきて、俺が小さい思てなめとったんやろな~。チンコ蹴って、いわしたったわぁ~、お前にも見せたりたかったの~」と自慢気に言ってきた。

….まぐれで当たったらしいやんけ….コウダイから聞いてるわ!…と出かかった言葉を飲み込み、タバコの灰を道路に捨てようとするとショーキが声を荒げた。

「あぁ~!おい!灰はこの瓶に捨てろや!ったく、地球環境を大切にせぇよ!なに考えとんねん!」

ポケットから素早くタバコの灰が詰まったジャムの瓶を出して蓋を開けた。

「シノギや、シノギ!花屋に売るんや。金欠や~、金欠」

とトモヤのタバコの先端に瓶を突き出した。在所の花屋でタバコの灰を買ってくれるので、いつもゼッペケのシートの下には拾った空き瓶が積んであった。

在所の中の落書き

その時北大路通りから猛スピードで異様に眩しい青白いヘッドライトの車が、千北の交差点にいるショーキとトモヤのところに突っ込んできた。フロントを縁石ギリギリに止めて千北通りの左の車線を塞いでいる。車高ベタベタ白のイチヨンのマジェスティがエンジンを切って、ファーン、ファーンと甲高いクラクションを鳴らした。ヘッドライトが顔に当たりそうになり後ろの花壇に転げた2人だが、ショーキはすぐに起き上がり背筋を伸ばし、厳しい顔つきでトモヤに立て立てとハンドサインをした。

「こんちわっ!!!」

ショーキが大声で挨拶をするのに驚いたトモヤはつられて頭を下げた。

「なんや?なんや?ショーちゃん…」

千北のローソン

写真 福持英助 / デザイン 櫻井浩(⑥Design)

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