ボクシング世界王者・高橋知哉の青春ストーリー『あんぽら』第1章

「京都中のホンマに喧嘩が好きなヤツを集めるさかいなぁ、お前も顔出せやぁ~」
中学2年のトモヤは、ちょうど北区の同世代をシメた後だった。ショーキの言う通り強いヤツとやり合いたい!喧嘩がしとうてたまらんのじゃ!俺が北区最強や!いつヤラれるか分からない恐怖感ともっと強くなりたいという焦燥感で熱り立ち、サンドバックを思いっきり蹴り上げた。
京都市北区の金閣寺の近くに千北の在所と呼ばれる朝鮮人部落がある。そのエリアには映画パッチギの舞台になったボウリング場があった。隣接する仏教大学と市営住宅の6号棟は2mを超えるコンクリートの壁で隔たれていた。側に流れる紙屋川の上に単菅パイプで建てられた違法建築の住宅街は0番地と呼ばれ、入り口はダンプで塞がれている。団地の中は書き殴られた立ち入り禁止の看板が目立ち、外部の人間も入ってくることはない。ここは無法地帯やな、と在所の者が言っていた。

紙屋川の0番地

円町でパクったカナイのジャージのポケットからマルメンを取り出して、トモヤも角材に座り一服した。
「ショーちゃん、ええよ」
煙をくゆらせながら返事をすると、ショーキは服役中のオヤジからもらった金の喜平ネックレスをTシャツで磨きながらニヤついていた。
「ビシビシやんけ…. ショーちゃん….」

在所の中の取り壊し前の団地

写真 福持英助 / デザイン 櫻井浩(⑥Design)

「あんぽら」はnoteでも公開中!
https://note.com/chimokufu/n/n31da0073a31a

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