アウトロードキュメント: 鬼 前編

「デン街」の音楽を変えたかった

7月27日、『ゴールデン街劇場』。
鬼は生バンドをしたがえ、代表曲である『小名浜』を歌っていた。 ルーツである福島県いわき市小名浜のダークサイドと自らの壮絶な生い立ちを、痛みを刻みつけるように韻を踏みながら歌ったこの曲は、ヒップホップ用語で名曲を指す“クラシック”と呼ばれている。

中学卒業も更正院
数年後には準構成員
旅打ちはまるで小名浜のカモメ
行ったり来たりが歩幅なのかもね
くじけた背中を洗うソープ嬢
泡と流す殺気立つ毒を
小名浜港は油で濁す
必要悪があくまで美徳


「なんかこの街、小名浜と似てるんだよな」
ライブを終えた鬼は、ゴールデン街を歩きながら背中ごしにつぶやいていた。
「どこが? って聞かれてもうまく言えねえけど……この狭さとか匂い? こっちの方が凝縮して、もっともっと濃いけど」
アウトロードキュメント:ラッパー 鬼photo_01
 

人ひとりすれちがえないほどの路地をぬけ、自分の庭のように酔客でごったがえす雑踏のなかを進んでいく。と、軒先から「鬼! 今日のライブどうだった?」と声がかかった。のれんの中に首をつっこみ、「元カノだよ」と着物姿のママを指す。

リリックの中で「G街」「デン街」と呼ぶこの街に居着いて、もう十年が経つという。 以前は般若や鎮座DOPENESS等の有名ラッパーと共演するなど、いわゆるヒップホップシーンの中心にいたが、昨年3度目の懲役から2年前に出所してからはシーンの中心から一歩離れ、この場所から音楽を発信している。

「デン街は俺みたいな貧乏な田舎もんに優しいんだよ。道の向こう(歌舞伎町)行っちゃえば諭吉がないと遊べねえけど、こっちは英世で遊べるんだもん。あとはまあ、この街の音楽を変えたかったってのも、あるっちゃあるけど」
アウトロードキュメント:ラッパー 鬼photo_02
 

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